お前と俺は運命共同体だ! (「ストーカー」についての臨床相談)

<『もう悩まなくていい ~精神科医熊木徹夫の公開悩み相談~』(幻冬舎)より>

21歳、看護師になりたての者です。

 私は今、整形外科病棟にいますが、24歳の男性患者さんのリハビリを担当していました。この方は、自動車の運転中に正面衝突し、たくさんの箇所の複雑骨折を負われたのです。

初めての担当患者さんでもあり、してあげられることは何でもしてあげようと、とても頑張ったんです。

ある時、「Oさん(私のことです)、いる?」とこの患者さんに呼び出され、長い時間話を聞くことになりました。実は5年間つきあった彼女にふられ、やけを起こして車で突っ込んだ、というのです。なんだかとてもかわいそうになり、手を握ってあげました。そして、私の携帯電話番号を教えてあげたのです。

それ以来、病棟からよく電話がかかってくるようになりました。患者さんはよく「この話、内緒にしておいてくださいね」というので、誰にも言わないでずっと過ごしてきました。

6ヶ月経ち、ようやく退院の日を迎えたのですが、その日の夜、「つきあってほしい」と告白されてしまったのです。そこで「他に好きな人がいる」といったところ、突然怒り出したのです。

「そんな関係壊してやる」って。「お前と俺は運命共同体だ」ともいいました。

それから、いやがらせの日々がはじまりました。

繰り返しの無言電話、私の行動の観察日記(どこかで見ているようなのです。でも私にはどこにいるのかわかりません)、病院に血のついたカミソリを送られてきたこともあります。

「誰かに言うと大変なことになる」といわれているので、誰にもいえません。そして外出するのが怖くてしようがなくなり、病院にいくこともできなくなってしまいました。

いつも見張られている、聞き耳をたてられている、そんな感じです。 

これからどうしたらいいのかわからないのです。
どうかアドバイスをください。

1;ストーカー、“妄想型”と“自己愛型”

 これは、いわゆるストーカーです。

ストーカーには、大きく分けて2タイプあります。

ひとつは”妄想型”、そしてもうひとつは”自己愛型”とでもいうべきものです。 

前者は、パラノイア(妄想症)という病名がつく場合もあります。

このタイプは、あなたと特別な関係があるという妄想(例えば、「あなたが俺のことを好きでしょうがないから、あなたと付き合ってやらなくてはならない」と思い込む、など)に基づき行動するので、見境いのない言動に出ることが多いです。そのため、警察に捕まるのも早いです。しかし、何度警察に捕まっても、性懲りもなく同様の行動を繰り返すのです。

すなわち、自らの言動の違法性に気づかないのが特徴です。

それに対し、後者はいわば”究極のジコチュウ”で、宇宙は自分を中心に回っていると疑わないタイプです。

あなたの関わったこの人物は、後者のタイプです。もう少し詳しく探ってみましょう。

2;ナルシシズムの癒すためだけの他者

このタイプは、生まれつきの資質、そして生育環境が相まって、幼い頃の自己万能感をそのまま肥大化させてきたものと思われます。

通常は、大人になる過程で、有能な他者に遭遇し、「自分はそれほど大したものではない」と悟るような軽い挫折体験を繰り返し、世の中で自己をどう折り合わせるか考えてゆきます。

しかし、その挫折体験が深すぎて、過剰な反発がめばえたか、あるいは挫折体験を全く経ないで年を重ねてしまったか、のどちらかにより、強固ではあるものの非常に脆いナルシシズムを作りあげてしまったのです。

このような人物の根拠のない自信ほど、手に負えないものはありません。

これまで、自己に対する強烈なナルシシズムを撒き散らしてきている訳ですから、当然のことながら、まわりから”鼻つまみ者”という扱いを受けてきたはずです。

その過程で、そのナルシシズムは深く傷つき、そして社会に対する猜疑心は、とても強まってきています。

彼にとって他者は、自己の肥大化したナルシシズムを癒すためだけに存在します。

そのため、他者というものを見る場合、その人物が自分の”敵”(自分を受容しない”不届き者”)であるか、”味方”(自己満足のため利用できる”都合のいい奴”)であるかに、おのずと分ける習性があります。

自分の”敵”には恨みを向けるし、”味方”は完全に支配し、徹底的に利用し尽くそうとします。

彼を優しく包み込もうとしてくれるような母性愛あふれる人物は、利用・収奪の絶好のターゲットです。(看護師は人助けが仕事という人々ですから、そういう意味で危険です)

またその支配の仕方は、言語を絶するほど執念深く陰湿です。

また、突然暴力を振るった直後に、泣いてひたすら謝るといったように、一つひとつの言動に大きな”落差”があるのが特徴です。相手に一触即発の危機感・恐怖感を持たせるのが、彼らの常套手段です。(感情のおもむくまま振舞っているようにみせて、実はその裏に”冷徹な悪意”が存在します)

3;“味方”が“敵”となったとき

ところであなたの場合ですが、この患者さんから、すっかり”味方”と認識されてしまったようです。

6ヶ月経ち、ようやく退院の日を迎えたのですが、その日の夜、「つきあってほしい」と告白されてしまったのです。そこで「他に好きな人がいる」といったところ、突然怒り出したのです。「そんな関係壊してやる」って。「お前と俺は運命共同体だ」ともいいました。

さあ、大変です。

“味方”だったはずのあなたが、翻って”敵”だと見なされるようになったのです。こういう場合、最初から”敵”である人物に対してより、一層恨みが深まります。

彼からすれば自分は、ひとたび信じ気を許した人物に手ひどく”裏切られ”た”被害者”ということになります。

これまでの人生で自己のナルシシズムを否認されつづけたことにより、鬱積されてきた恨みつらみが、ここぞとばかりあなたに傾注されます。

すなわち、つけまわし覗き見るという卑劣な手口で、あなたを心理的に追い詰め、自分のゆがんだ欲望を満足させようとします。

これは「この俺を深く傷つけるような悪者」に”正義の鉄槌”をくだすという大義名分(自分のなかでしか整合性がないものですが)があるため、自ら悪事に手を染めているという反省および自責の念は、まったく欠落しています。(しかし、社会的には容認されないことであるという自覚はしっかりあるので、警察に捕まらないように周到な手口を用意しています。

本当は臆病者ですから、法で裁かれることを、ことのほか怖がっています。そのため、「誰かにいうと大変なことになる」などと、あなたを脅すわけです。結果として、このような振舞いで、より罪を深めることになるのですが)

それどころか、陶酔感さえ伴うので、ストーキングがどんどんエスカレートしていく傾向があります。

4;「誰かにいうと大変なことになる」!

さて、今後どうすればいいかですが、いくつかアドバイスいたしましょう。

――本文章は、『隣人があなたを振り回す!(徹底相談~精神科医熊木に訊け!~)』 [Kindle版]に収録されたものの一部です。続きをお読みになりたい方は上記リンクからご購読ください(*Kindle版は電子書籍ですが、アマゾンの専用端末がなくとも、iPhoneやAndroidスマートフォンで読むことができます。詳しくはこちらをご覧ください)

熊木徹夫
あいち熊木クリニック<愛知県日進市(名古屋市名東区隣)。心療内科・精神科・漢方外来>
TEL: 0561-75-5707 )

 

<※参考>

電話の奥で殴られる彼女 < 精神科医熊木徹夫の「臨床Q&A」(7)>

私のなかにいる”陽子” (「PTSD」<トラウマ>についての臨床相談)

テニスできないなら死んでも一緒 (「自己愛性人格」についての臨床相談)

他人の言葉に振り回される自分が嫌(20代女性)

ストレス、くよくよしている自分が情けない(40代女性)


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