精神科薬物治療を成功に導くために、精神科医・患者双方が知っておくと良いだろうこと

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本書(『精神科のくすりを語ろう・その2』)は、患者さんの官能的評価を集積し、それらを編集することにより、精神科薬物の治療可能性を現状よりさらに拓いていくことを目指したものです。その前提として、それぞれに長所短所はあれど、各々の精神科薬物がより豊かな何かを精神科臨床の場にもたらすはず、という私の信念が存在しているのです。

 

もし精神科医の側に、精神科薬物への強い信頼がないとどうなるか。信頼が持てない物については使おうともしないでしょうし、そもそも知ろうともしないでしょう。先見的に患者さんと薬物の相性が分かるのでしたら、泥臭い試行錯誤の過程は必要ない。しかし現時点では、有効性が高いと思しき薬物を選択することは修練を積むことである程度可能ですが、体質的に合わない物を完全に除外することはほとんど不可能です。すなわち、薬物の最終選択・適量の調整については、薬物一剤一剤を地道に増減することによりマッチングを行うしか道はない。手術をこなした数が圧倒的に多い外科医が、自ずと他の外科医より優れた手技を身につけていくように、精神科薬物療法においても真剣な姿勢で薬物の反応を汲み上げ続けてきた、いわば”場数を踏んだ”精神科医でなければ、”畳の上の水練”だけでうまくなるはずがありません。

 

患者さんについても同様のことがいえます。精神科医とその人物が処方する薬物について、まずは信頼しようとしなくては、治療は決して成功しないでしょうし、そもそも治療の端緒につくことさえできません。

 

残念ながら、精神科医・精神科薬物に対する猜疑心をみなぎらせ、腰の引けた態度を取ってしまう患者さんや、薬物治療に対し期待も熱意もなく、ただ漫然と受容し続けるのみといった患者さんは、一定数存在します。

このような人々にも、いくつかの類型があります。

(※本文中で言及したものもありますが、ここで改めてまとめなおしてみたいと思います)

 

1)これまでいくつもの精神科を受診したものの、何らかのかたちで常に期待を裏切られ、「もう何も信じない」と頑なな姿勢を堅持する人

 

2)ある薬物を処方された後に、薬物の副作用を他人から聞いたり、インターネットで調べ上げ、猜疑心をむき出しにする人(そして、自分勝手に服用したり、あるいは勝手に断薬したりする人)

 

3)薬の名前を覚えられない人・覚えようともしない人

 

4)薬物のマッチングに成功し、かなりの安楽が得られたにも関わらず、次第に”薬の有り難み”が薄れ、”服薬に束縛される毎日が続く現状”を悲観する人

 

それぞれについて、私の考えをお伝えします。

 

1)これは気の毒なことだと思います。しかし、精神科医は誠実に頑張っていたけれど期待した結果に結びつかなかったのか、そもそも精神科医が不誠実な対応をしてくるため取り付く島がなかったのか、厳密に区別する必要があります。前者であれば、粘り強く別の精神科医を探すことで、特別な職能を有した人物に出会うことができるかもしれません。後者であれば、それはとても残念なことです。

しかし結局のところ、あなたと相性が合い、あなたをよく理解する精神科医が一人見つけられればそれでいい。全国約15000人の精神科医の中に、必ずやそのような人物は居るでしょう。どうかあきらめず、もう少しだけ踏ん張っていただきたいと強く思います。

 

2)親しい友人やインターネット上での口コミには真実がある、と盲信する人がいます。しかし、本当にそうだと言えるでしょうか。私はそれらにかなりバイアスがかかっている、と考えています。そもそも、服用をひた隠しにしたいという人が多い精神科薬物について、「●●に良く効いて、とてもありがたかったです」というような書き込みがどれほど成されるでしょうか。それよりも、精神科医や精神科薬物に不満を持った人々が怒りを込めてインターネット上で書き込むことの方がはるかに多いはずです。

(これは、インターネット上の官能的評価が無意味である、ということではありません。こういった情報に触れる時・取り扱う時、細心の注意を要するということです)

また意外に思われるかもしれませんが、このような頑なに精神科薬物を拒む人ほど、何かのきっかけから急転直下、薬物に耽溺することが少なくありません。要するに自己判断に自信が持てないため、あること(物)を信じるか信じないかはオール・オア・ナッシング。ある極端なところから、その真逆のところまで、振れ幅大きく揺れ動くのです。

 

3)これは、ご年配であったり、ひどいうつ状態があって、記銘力低下が著しいなら仕方ないことです。しかし、これまで数年間同じ薬物を処方されているのに、「ずっと服んでいる薬? そういえば、セロク・・何たらです」というような感じで、薬剤名がキチンと言えないのは非常に具合が悪いことだと思います。

薬物には当然、あらかじめ期待される薬効というものがあります。しかし、それ以外にプラセボ効果(偽薬効果)というものもあります。「プラセボ効果などに期待を込めるなど、邪道だ」という方に言いたい。果たして本当にそうか。私は以前、拙論「治療戦略的プラセボ~精神科薬物療法の目指す未来~」の中で、”治療戦略的プラセボ”という概念を提唱しました。戦略的に良きプラセボを作り出すことに意味があるとし、精神科医はそれを目指すべきだと述べています。これは、本来薬物が有するであろう薬効を把握することに意味が無い、と言っているのではありません。ただ良きプラセボ効果は、良き治療関係の中からしか生まれでません。そしてそういった治療関係は、精神科医=患者双方が営々と構成していくべきものです。

ところで、いつまで経っても、たかだか5~6剤の服用薬の名を覚えられない・覚えようともしないことは何を示すか。それは「薬なんかに注意を払っていないぞ」という突っ張り・居直りの姿勢ではないでしょうか。

あるいは、眼前の主治医に全幅の信頼を置いているので、”まな板の鯉”状態、どうにでもしてくださいという自己判断放棄という可能性もあります。

いずれにせよこのような姿勢だと、精神科医がいくら薬物の微増・微減を繰り返して、調整に心を砕いたとしても、患者さんは薬物が自分の体にどう響くかということにまるで注意が向かないため、処方者である精神科医への情報フィードバックがうまくいかず、治療は迷走することになります。そんな危険な状況なら私は、その患者さんに精神科薬物を委ねる気にはなりません。患者さんが薬物をキチンと知ろうとし、キチンと服む。これが薬物療法の大前提だと考えます。

私は診察室で、このような患者さんによく次のようなことをお話しします。

「薬物というものは、本当に信頼してくれる人にしか、効かないものです。処方された薬物に「効いてくれ!頼む」と願をかけ、効いた暁には、「薬よ、効いてくれてありがとう!」というような姿勢が持てる人でないと、うまくいかないことが多いのです」

しっかり服用を継続し、そこで具合が悪いことが出てくるならば、その訴えに基づき処方変更をする。当たり前のことですが、とても大事なことです。

 

4)「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ということです。

あれほど苦しんでいたのに、そしてそれに効く薬物が見つかり大層喜んでいたのに、時間が経つと次第に「薬物のありがたみ」が薄れてしまう。そして、もはや桎梏としか感じられない精神科薬物、そしてそれを処方し続ける精神科医に対し、「これさえなければ・・」と恨めしい気持ちが芽生えてきて、どうにもならない。

確かにずっと服用が続くことが確定的ならば絶望感に囚われるかもしれません。しかし、多くの人はそうではない。このようなことを言う患者さんに、私は次のようにお伝えしています。

「世の中には、安定が得られる薬物に巡り合えなくて苦しんでいる人も少なからず居ます。それに比べると、今の薬物と遭遇し、安定に辿りつけたあなたは、ラッキーなのではないでしょうか。薬物を服む毎日などごめんだ!と薬物を投げ出したい気持ち、分からなくはない。ですが、自己判断による急な断薬はとても危険なことですから、どうか思いとどまって欲しい。安定を維持し、最終的に薬物を完全に止めることは、あなたと私共通の目的であることに違いありません。ただ、適切な時期が来ないうちから、無理やり減薬を行うのではなく、あなたの体が”もう薬はいらないよ”と言ってくるのに耳を傾けながら、養生を心がけ待つことにしませんか」

 

つまるところ、精神科薬物治療で最も大切なのは、精神科医=患者相互の信頼関係、および双方の忍耐です。それがあってこその官能的評価です。

本書を活用することにより、私の患者さん、および全国の患者さんが、少しでも現状の苦痛から開放されることを祈念しています。

そして、精神科医の皆さんが日々の診療で行き詰まったときに、本書の内容が何がしかのヒントとして役立てられることも。

 

熊木徹夫(あいち熊木クリニック

<愛知県日進市(名古屋市名東区隣)。心療内科・精神科・漢方外来>

:TEL: 0561-75-5707: http://www.dr-kumaki.net/ )

 

<※参考>

妊婦さんや授乳期のお母さんの、理想的な精神科薬物との関わり方


ジェネリック薬に対する当院の考え方(2012.4.)

先発医薬品は「マイカー」、ジェネリック薬は「全く癖のわからぬ他人の車」

服薬して楽に過ごしていくことは<甘え>だ

身体は「神様から借りた器」

中井久夫随想~論文「薬物使用の原則と体験としての服薬」をめぐって~

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