”主客”の共鳴から生まれる「官能的評価」(論文「「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~」より)

2016年4月5日

まずこの「官能的評価」が機能するためには、どのような前提がなくてはならないか。

茶道などで持ち出される「主客一体」がそれである。「主客一体」とは、主人と客がそれぞれ主体を維持しながら、同じ「おもてなし」の場を共有して、相互が共鳴して新しい価値を創発していくような関係を指して言う。

さらには、「一座建立」が果たせれば言うことはない。「一座建立」とは、これもまた能楽や茶道の世界について述べられた言葉で、その世界の楽しさも、純粋さも、高さも、その一座に居合わせたものが、お互いに相手を尊敬し、心を合わせ、何刻かの心和んだ高い時間を共有しようという気持があって、初めて生み出すことができるものに他ならない。(井上靖『一座建立』より)

この”主人と客”とはすなわち、精神科医と患者であり、”一座”とはすなわち、診察室などの臨床の場であると置き換えて考えてみるとよい。そしてこの”一座”にあって、”主客”の共鳴から生まれるものが、「官能的評価」なのである。

とはいえ、あらかじめ精神科薬物の専門知識や多くの投薬経験を有し、治療を主導するのは、”主”たる精神科医であるべきなのは言うまでもない。精神科医の役割はオーケストラにおける指揮者の役割である。自ら音を作り出す役目を負わない。患者の身体構造を感知し、それにふさわしい処方を編むこと、すなわち治療のコンテクストを編むことが、その”主”たるものの役割である。

それに対し”客”たる患者は、オーケストラの演奏者である。指揮者の意を受けてハーモニーを形作るべく、直接「官能的評価」という”音”を発する役を担うが、この音は演奏者だけのものではない。指揮者と演奏者の”共同作品”なのである。

 熊木徹夫(あいち熊木クリニック<愛知県日進市(名古屋市名東区隣)。心療内科・精神科・漢方外来>:TEL: 0561-75-5707: https://www.dr-kumaki.net/ )

<※参考>

良き「官能的評価」がもたらされるための条件(論文「「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~」より)

そもそも身体感覚の鈍い人とは(論文「「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~」より)

”服み心地”と「官能的評価」の違い(論文「「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~」より)

『精神科薬物の官能的評価 〜精神科医と患者、主観の架け橋〜』 

「官能的評価」から考えた精神科治療論 ~いかに抗うつ薬を、服み効かせるか~

実際臨床における「官能的評価」の炙りだし方

特報(7) 『精神科のくすりを語ろう・その2』おたよりメールのご紹介。~官能的評価は<生きのいい魚>~