一方ここに、自らの顔を鏡に映し、初めての口紅をつけて、はにかみながら微笑む少女がいる。
女の子なら誰しも経験すること。
おしゃれすることの楽しみに目覚めた瞬間だ。
最初は、ただ「キレイになりたい」だけだった少女も、やがて他者の目線に“遭遇”する。
気になる男の子に振り向いてもらえるか。
どうせなら、女友達からも「キレイ」っていわれたい……。
しかし、そのような素朴な願いも、じわじわ打ち沈められていく。
そう、回りの“空気”を読まなくてはね。
他者の思いを斟酌するようになると、おしゃれは自分だけのものでなくなる。
それゆえ、時におしゃれは、喜びだけでなく、苦痛を生み出すようにもなる。
“とびきりキレイ”はKY。
“さりげなさ”命。
でも、さりげなさって何だっけ?
彼女は、鏡の前でいつもながらため息をつく。
何をどうしても、気に入らない。
お化粧はむかし、楽しかったはずなのに。
よくよく考えてみると、この団子っ鼻が悪いのだ。
きっとそう。
目尻が上がっているのも、かわいくない。
こんな顔に生んだ両親が悪いのよ、きっと。
…数年後の彼女。
思い切ってやった整形手術。
鼻も目尻も治したけれど、なんだかバランスが変。
治さない方が良かったかもしれないけど、もうどうにもならない。
今度は、顎のラインをどうしても治したい。
でもすごいお金がかかるって言われた。
もうこうなったら、戻れない。
これまで貯めた定期預金を崩して、また手術をするわ…。
彼女は近頃、みんなが自分を見て振り返るのが、気になっている。
そういえば、みんな何か嫌そうな顔をして、ヒソヒソ話をしているような感じだ。
きっと私から何か臭っているんだわ。